
4%ルールとは資産を最も長持ちさせる取り崩し方法のことです。
1998年、米国トリニティ大学が発表した論文が由来になっており、トリニティスタディとも呼ばれています。
株式50%債券50%の資産をつくり、年4%ずつ取り崩せば、30年後も資産が残っている可能性は100%
しかも資産は残るどころか、最低でも倍になったというのです。
トリニティスタディがあまりに説得力を持っていたため、「ある程度の資産を築けば、あとは一生遊んで暮らせる!」と多くの人がFIREを目指すようになりました。
しかしトリニティスタディには多くの前提条件があり、間違った理解で資産を組んだら4%ルールの効果は期待できなくなります。
ここでは2018年にアップデートされた最新のトリニティスタディ結果も踏まえて、4%ルールを正しく理解するための前提条件や詳細な結果について解説します。
まずはFIREの土台である4%ルールを正しく理解して、少しでもアーリーリタイアの成功確率を上げていきましょう!
「そもそもFIREって何?」という方は、まず以下の記事からご覧ください。
トリニティスタディ(4%ルール)の全文リンクと概要
トリニティスタディの全文は下記リンクから読むことができます。
Retirement Savings: Choosing a Withdrawal Rate That Is Sustainable
(Philip L. Cooley, Carl M. Hubbard and Daniel T. Walz)
概要をまとめると以下の通りです。
- トリニティスタディ論文の正式名称(日本語訳)は『退職金の節約:持続的な引き出し率の選択』
- 米国の1926年〜1995年の株式チャートと債券価格チャートのデータを使用
- 株式:債券の割合を変えた1,000ドルの退職金を、さまざまな時期から引き出すという計算シミュレーションをした
そしてこの計算シミュレーションの結果、どの時代においても資産の引き出し率が4%以下であれば、資産は30年経っても残っていたという結論が出たのです。
さて概要をお伝えしたところで、どんな疑問を持ちましたでしょうか?

株や債券のチャートって、具体的にどこからのデータで計算したの?

1995年までってもうデータとして古くない?

30年後に残っていた資産はいくらになったの?
などなど。
それでは次からトリニティスタディの前提条件と計算シミュレーション結果を詳しく見ていきましょう。
トリニティスタディ(4%ルール)の前提条件
まずはトリニティスタディの計算で使われた前提条件で重要と思われる情報を紹介します。
株式チャートはS&P500指数、債券チャートは米国高格付け社債を使用
The Standard & Poor’s 500 index was used to represent stocks, and long-term, high-grade corporate bonds were used to represent bonds. (All stock, bond, and inflation data were from “Stocks Bonds Bills and Inflation: 1996 Yearbook : Market Results for 1926-1995
Retirement Savings: Choosing a Withdrawal Rate That Is Sustainable(Philip L. Cooley, Carl M. Hubbard and Daniel T. Walz),” Ibbotson Associates, 1996).
株式と表しているものはS&P500指数である。債券と表しているものは長期高格付社債である。(本文中全ての株式、債券、インフレ率データは、1996年Ibbotson Associatesより発行された”Stocks, Bonds, Bills, and Inflation, 1996 Yearbook”を使用した)
米国ETFで言えば、株式はVOO、IVV、SPYなど。
債券はLQDに相当します。
ちょっと信頼性のあるチャートデータが見つかりませんでしたが、ざっくり以下のようなチャートと思います。
1926年〜1995年といえば、世界恐慌も第二次世界大戦もオイルショックも含まれていますので、暴落の影響は十分に考慮された計算シミュレーションと言えるでしょう。
毎年【定額】で引き出し続けた
引き出し開始時の資産を1,000ドルと設定していますので、引き出し率3%なら毎年30ドル、4%なら毎年40ドル定額で引き出し続けたということです。
定額法は実際の生活費をまかなう想定で考えれば現実的な条件と思います。
定率で引き出す条件だと、生活費を毎年変えないといけなくなりますから。
定率法の例)
最初1000ドルの4%で40ドルを引き出す。しかし次の年は残り資産が約960ドルになっているから38.4ドルしか引き出さない。

これは生活費をまかなうという想定だと、ちょっとおかしいですよね
信託報酬(管理手数料)、課税は考慮しない
最近は信託報酬0.1%を切るインデックス投資商品が多くありますので、そこまで影響の大きい要素ではないと思います。
問題は課税=税金の影響。4%ルールでは税金が差し引かれてないということですね。日本だと20.315%もとられるので、無視できない影響です。
トリニティスタディ(4%ルール)の詳細な結果
前提条件も抑えられたところで、論文中の結果を細かく見ていきたいと思います。
- 4%以外の引き出し率では結果どうなったのか
- 株式と債券の割合を変えると成功率はどう変わったのか
4%という数字がどう導きだされたのか、周囲の数字もあわせて見ていきましょう。
資産構成比と引き出し率ごとの成功率
ここでいう成功率とは、1926〜1995年のさまざまな期間において資産を引き出した際、資産残高が引き出し期間の最後までゼロにならなかった確率を意味しています。
引き出す期間を30年とした場合、各資産構成比と引き出し率ごとの30年後成功率は以下のグラフのようになりました。

- 最も引出し率が高い状態で成功率100%を維持できたのは、株式25%債券75%
(最大引き出し率6%) - 株式比率が高い資産は早々に成功率100%を割ってしまったものの、引出し率を上げても成功率の低下は小さい
- 債券比率の高い資産は、引出し率を上げると急激に成功率が下がる
確かに引出し率4%なら株式100%以外の資産で成功率100%なので、4%は最適な引出し率と言っていいように思えます。
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とにかく株(S&P500)と債券(LQD)混ぜて4%ずつ引き出しゃいいのね
簡単じゃん!
しかしこの後の結果を見ていくと、4%ルールの落とし穴も見えてきます。
物価の変動(インフレ・デフレ率)で補正した成功率
トリニティスタディでは、物価の変動すなわち各年のインフレ・デフレ率も考慮した計算シミュレーションも掲載しています。
インフレ・デフレ率の補正方法は次の通りです。
- ある年のインフレ率が2%だったなら、引き出す金額も2%増やす
例)通常の引出し金額が40ドルなら、その年は40.8ドル引き出す - 逆にある年のデフレ率が2%だったなら、引き出す金額を2%減らす
例)通常引出し金額が40ドルだったなら、その年は39.2ドル引き出す
これも生活費をまかなっていく想定なら必要な補正と思います。
現在と30年後、同じ値段で物・サービスが買えるとは考えにくいので。
以上のように毎年の引出し金額にインフレ・デフレ率の補正をかけると、成功値は次のグラフのように変化しました。

- インフレ・デフレを加味すると、どの資産構成比でも成功率は大きく下がる
- 引出し率4%において、成功率100%の資産構成比はない
(最高でも株式100%または株式50%債券50%の成功率95%) - 引出し率3%であれば、インフレ・デフレ率を加味しても成功率100%
- 特に債券比率が高いと、インフレ・デフレの影響で成功率が極端に下がる
私のような保守的人間からすれば、4%ルールじゃなくて3%ルールじゃんwなんて思っちゃいますね。
引き出し後の資産の残高
トリニティスタディでは引き出し期間経過後、資産がいくら残ったのかも計算結果を載せてくれています。ただしインフレ・デフレ補正はされてませんのでご注意ください。
次のグラフは、各条件で30年間引き出した後の資産残高の最大値、中央値、最小値を示したものです。引き出し開始時の資産額は1000ドルと仮定。

- 株式比率が高いほど、引き出す期間によって残高が大きく変わる
- しかし最悪の想定(資産残高の最小値)を見ると、資産構成比の差はほとんどない
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底値が似たり寄ったりなら、上振れする可能性の高い株式多めを私だったら選んじゃいますね
トリニティスタディ(1998)後の研究成果
1998年のトリニティスタディ発表から、およそ20年が経ちました。
その間にも株式や債券市場ではさまざまな出来事がありましたので、その影響を反映したトリニティスタディのアップデート版とも言える研究論文もいくつか発表されています。
トリニティスタディ2018年更新版
2018年にWade Pfauさんという方が発表された計算シミュレーション結果で、トリニティスタディ1998版から次の変更がされています。
また原文については下記リンクから読むことが可能です。
The Trinity Study And Portfolio Success Rates (Updated To 2018)
変更点 | 1998年版 | 2018年版 |
対象期間 | 1926〜1995 | 1926〜2017 |
使用した市場データ | 株式:S&P500指数 債券:長期高格付社債 | 株式:S&P500指数 債券:中期米国債 |
対象期間が2017年まで含まれたため、2000年初頭のITバブル崩壊や2008年のリーマンショックのような暴落の影響も見ることができます。
また債券は社債から国債に変更されています。米国ETFで言えばAGGあたりでしょうか。
1998年のトリニティスタディと2018年更新版を比べたグラフが次になります。
ちなみにどちらもインフレ・デフレ率補正済みです。

- 1998年版と2018年版で計算結果に大きな変化はない
- 株式50%債券50%の引出し率4%は、2018年更新版で成功率100%に上昇
(おそらく国債に変えた影響と思います)
最新の市場動向を加味しても結果に大きな影響がないことから、トリニティスタディそのものの信頼度はやはり高いですね。
ただ成功率は5%前後動いているので、『100%』という数字にそこまでこだわる意味はないんじゃないかなとも思いました。
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どこまでいっても投資に絶対はないってことなんでしょうね
引き出し期間を60年まで計算した拡張版
人生100年時代。仮に40歳でFIREしても、残り60年もあります。
そこで30年よりもっと長く引き出そうとしたらどうなるの? ということを計算した論文もありました。
The Ultimate Guide to Safe Withdrawal Rates
対象期間 | 1871〜2015 |
使用した市場データ | 株式:S&P500指数 債券:長期米国債 |
泣く子も黙る第一次世界大戦前からですよ。「君(の資産)は生き延びることができるか」by 永井一郎ですよ。突然のガンダムネタすみません。
この論文でも債券は国債(AGG相当)を選択しています。
計算結果は以下の通りです。インフレ率も込みとのこと。
引出し期間を60年としても、引出し率3%なら成功率100%というのは驚異的。やはり3%ルールに改名したほうがいいのではないでしょうかw
この結果においても、株式比率多めの方が引出し率を上げても成功率の低下は緩やかになるようでした。
まとめ|4%ルールを熟知し、自分の資産は自分で守る意識を
以上、4%ルールの中身について解説しました。いやあ脳みそ爆発するかと思いましたw

数字多すぎてわけわからん!
全体をまとめると次のようになります。
- 成功率100%にこだわるなら引出し率は4%でなく3%で見積もったほうがいい
- 債券比率50%以上はデメリット多し
引出し率(生活費)を上げると途端に成功率が下がるし、物価変動や引出し期間の長期化(長生きリスク)への耐性がなさすぎる - 債券は社債より国債の方が成功率は高まりそう
- 特にインフレ・デフレの影響は無視できず、日本で暮らしながら資産を米国株・米国債でつくるなら為替に要注意
(円/ドルレートなんて、物価の比じゃないくらい変動しますからねw)
情報がいっぱいあると頭こんがらがっちゃうかもしれませんが、やはり全体を見ることで考えの視野も広がります。
- 「成功率に数%の差しかないんだったら、株式100%でもいいかもな〜。今なら全世界株式なんて指数もあるし」とか
- 「トリニティスタディって結局は株式と債券の値上がり益しか見てないから、不動産(REIT)や高配当株といった配当益の資産を持つとどうなんだろう」とか
- 「為替とか物価の影響デカすぎ。資産の半分以上はやはり円ベースとか、コモディティ(金)で持っておきたいな〜」などなど。
トリニティスタディで扱った領域って、金融全体から見たら本当に極一部に過ぎません。
だから4%という数字にこだわらず、環境や価値観にあわせて自分の頭で考え続けるのが真の最適解だと私は思います。
月並みな結論になってしまいますが、自分の人生を守るのはやっぱり自分なのです。
常に新しい情報を取り入れながら、そのときそのときの最適解を考え続けていきたいですね。
私も自分の資産づくりを通して、少しでも参考になる情報をお届けしていきたいと思います。