FIRE(経済的自立と早期退職)ができるかどうかの目安として、よく4%ルールというものが使用されます。
4%ルールとは『自分の株や債券資産は年4%取り崩して生活すべし』というものです。
ざっくりした4%ルールとFIREの関係については以下の動画が参考になります。
さてこの4%ルール。
根拠となっているのは1998年、米国トリニティ大学が発表したトリニティスタディと呼ばれている論文です。
トリニティスタディの結論は以下の通り。
株式50%債券50%の資産をつくり、年4%ずつ取り崩せば、30年後も資産が残っている可能性は100%
しかも資産は残るどころか、最低でも倍になったというのです。
トリニティスタディがあまりに説得力を持っていたため、多くの人がFIRE達成=4%ルールの条件クリアを目標にするようになりました。
しかしトリニティスタディには多くの前提条件があり、間違った理解で資産を組んだら4%ルールの効果は期待できなくなります。
トリニティスタディ原文を読むと、4%ルール以外にも次のようなことがわかってきます。
- 4%ルールには税率(米国なら10%、日本なら20.315%)が考慮されていない
- 債券の割合が多くなると、高い取り崩し率で資産が残る可能性が急激に低下
- 4%ルールは物価変動に大きく左右される
- 1998年までを計算したトリニティスタディと、2017年までを計算した更新版で、資産が残る確率が若干変化した
- 4%ルールではなく、実は3%ルール?

なんか・・・まとめ読むだけでうんざりしてくるんだけど

とっつきにくくてスンマセン^^;
でも人生全体にわたる資産運用の話。逆にざっくり解説されたら不安になるでしょう?
ここでは2018年にアップデートされた最新のトリニティスタディ結果も踏まえ、4%ルールを正しく理解するための前提条件や詳細な結果について解説します。
FIREの土台となっている研究を正しく理解して、少しでもアーリーリタイアの成功確率を上げていきましょう!
トリニティスタディ(4%ルール)の全文リンクと前提条件
まずはトリニティスタディの概要と、様々な前提条件について解説します。
トリニティスタディの全文を直接確認したい場合は、下記リンクをご参照ください。
Retirement Savings: Choosing a Withdrawal Rate That Is Sustainable
(Philip L. Cooley, Carl M. Hubbard and Daniel T. Walz)
- 正式な論文名『退職金の節約:持続的な取り崩し率の選択』(日本語訳)
- 米国の1926年〜1995年の株式チャートと債券価格チャートのデータを使用
- 株式:債券の割合を変えた1,000ドルの退職金を、さまざまな時期からさまざまな比率で定額で取り崩し続けるというシミュレーションを実施
- 結果、退職金の持続的な取り崩し率は4%だった
株式チャートはS&P500指数、債券チャートは米国高格付け社債
トリニティスタディでシミュレーションされた株式と債券の種類ですが、株式は米国ETFのVOO、IVV、SPY、債券はLQDに相当します。
The Standard & Poor’s 500 index was used to represent stocks, and long-term, high-grade corporate bonds were used to represent bonds. (All stock, bond, and inflation data were from “Stocks Bonds Bills and Inflation: 1996 Yearbook : Market Results for 1926-1995
Retirement Savings: Choosing a Withdrawal Rate That Is Sustainable(Philip L. Cooley, Carl M. Hubbard and Daniel T. Walz),” Ibbotson Associates, 1996).
株式と表しているものはS&P500指数である。債券と表しているものは長期高格付社債である。(本文中全ての株式、債券、インフレ率データは、1996年Ibbotson Associatesより発行された”Stocks, Bonds, Bills, and Inflation, 1996 Yearbook”を使用した)
ちょっと信頼性のあるチャートデータが見つかりませんでしたが、ざっくり以下のようなチャートです(Stocksが株式で、Bondsが債券)
1926年〜1995年といえば、世界恐慌も第二次世界大戦もオイルショックも含まれていますので、暴落の影響は十分に考慮された計算シミュレーションと言えるでしょう。

大暴落を経験しつつも、長期的には右肩上がりなんですよね

日経平均とは全然違うのね
日経平均株価は下図の通り、1990年からほぼ横ばいとなってしまっています。

つまり4%ルールの成立は、米国株や債券のような今後も成長が期待できる金融資産であることが前提になっているということです。
毎年【定額】で取り崩し続けた
トリニティスタディでは定額法と呼ばれる方式で、資産の取り崩しシミュレーションを行いました。
The annual dollar withdrawals are based on a first-year withdrawal rate that is a percentage of the initial portfolio value.
Retirement Savings: Choosing a Withdrawal Rate That Is Sustainable(Philip L. Cooley, Carl M. Hubbard and Daniel T. Walz)
年間のドルの取り崩し額は、初年度の資産額に対する割合=初期引出し率に基づいている。
取り崩し開始時の資産を1,000ドルと設定していますので、取り崩し率3%なら毎年30ドル、4%なら毎年40ドル定額で取り崩し続けたということです。

生活費ってだいたい一定額かかりますから、トリニティスタディが定額法なのは妥当な前提条件だと思います
信託報酬(管理手数料)、税金は考慮していない
トリニティスタディでは、投資信託やETFに係る信託報酬、また値上がり益にかかる税金は考慮していません。
The study did not adjust for taxes or transaction costs.
Retirement Savings: Choosing a Withdrawal Rate That Is Sustainable(Philip L. Cooley, Carl M. Hubbard and Daniel T. Walz)
An investor’s own experience would differ depending on how much of his assets were in tax-deferred accounts, and the extent to which transaction costs could be held to a minimum using low-cost index funds.
本研究では税金や取引手数料による調整をしなかった。
実際の投資においては、どれだけ税額控除されたか、どれだけ取引手数料を最小化したかで各投資家の実績は異なるだろう。
取引手数料、信託報酬については、確かに無視してもいいレベルと思います。手数料0.1%以下という低価格の金融商品も多く出ているので。
問題は税金のほう。
日本だと20.315%も課税されるので、とても無視できません。
仮に1,000ドルで買った株式を1,500ドルで売却できると、値上がり益500ドル×20.315%で約100ドルが税金として失われます。
特に長期インデックス投資は購入時の数倍、数十倍の値で売却することになるので、かかる税金を考慮してないと「思ったより手元にお金が来ない・・・」ということになりかねません。
トリニティスタディからわかる4%ルール【以外】の5つのこと
前提条件もおさえられたので、いよいよトリニティスタディの中身について見ていきたいと思います。
4%ルールがどう導きだされたのかに加え、周囲の数字もあわせて見ていきましょう。
債券の比率50%以上はFIREに不向き
株式と債券の割合を変えて、各取り崩し率の30年後成功率をグラフにしました。
30年後成功率とは、1926〜1995年のさまざまな期間において30年間資産を取り崩したとき、資産残高が最後までゼロにならなかった確率です。
「4%ルールは株式50%債券50%の資産構成で」と言われますが、グラフを見ると、取り崩し率4%では、どんな資産構成も大差ありません。
どちらかというと、債券比率が高い資産ほど、取り崩し率を上げていくと30年後成功率が極端に下がることのほうが印象的です。


株式25%債券75%での変化がほんと急激ね

債券は株式に比べて値動きが安定してると言われるけど、資産を使いながら長持ちさせようとすると、値上がりスピードが足りないということなんだろうね
30年後どれだけの資産が残ったか
ちなみに資産が残ったか、残らなかったかだけでなく、いくら残ったか? も見てみましょう。
30年間取り崩した後、どれだけお金が残っていたかを示す30年後資産残高は以下の通りです。
縦棒が長いほど、取り崩した時期によって、残った資産の差が激しいことを表しています。

株式100%の極端な棒の長さ(資産残高の変動の激しさ)に対し、債券比率を増やすことて残高変動が一気に抑えられるのがわかります。
まさに値動きの激しい株、安定剤としての債券を示すかのようなデータです。

株式多めでFIREしながらも資産増を狙うか、極端な変動を避けて債券を混ぜるか・・・
まさにリスク許容度との付き合い方が問われるデータですね
物価変動は資産寿命に大きく影響する
トリニティスタディでは、物価の変動すなわち各年のインフレ・デフレ率も考慮した計算シミュレーションも掲載しています。
インフレ・デフレ率の補正方法は次の通りです。
- ある年のインフレ率が2%だったなら、取り崩す金額も2%増やす
例)通常の取り崩し金額が40ドルなら、その年は40.8ドル取り崩す - 逆にある年のデフレ率が2%だったなら、取り崩す金額を2%減らす
例)通常取り崩し金額が40ドルだったなら、その年は39.2ドル取り崩す
これも生活費をまかなっていく想定なら必要な補正でしょう。現在と30年後、同じ値段で物・サービスが買えるとは考えにくいので。
以上のように、毎年の取り崩し金額にインフレ・デフレ率の補正をかけると、成功率は次のグラフのように変化しました。
点線が補正前、実線が補正後です。
どの資産構成も、物価変動を考慮すると成功率が低下したことがわかります。


また債券75%の変化が極端・・・4%でも成功率80%切っちゃったじゃない

債券の値上がりは物価上昇にもついてこれないってことなんだろうね
米国は長期的にインフレの国なので、補正をかけると取り崩す金額が増え、全体的に成功率が下がったと考えられます。
日本は長期的にデフレの国ですが、将来はどうなるかわかりません。経済論的には年2%程度のインフレが良いとされていますし、日本政府の方針も基本インフレさせようとしていますから。
そしてこのインフレ・デフレ補正の結果から、もう1つ大事なことがわかります。
お金の価値が変わるもう1つの要因、為替の影響です。
トリニティスタディの落とし穴|為替の議論がない
トリニティスタディは米国株式、米国債券で退職金を運用して、米国で生活することを想定しています。
だから資産は常にドル。為替の影響について全く触れられていません。
米国は1980~2020年にかけて、物価が2.5倍くらいになりました。
そして日本円/ドル為替も、この30年かけて2.5倍の円高になっています。

【外国為替市況】(日本銀行 時系列統計データより)
以上の結果から、先ほどのインフレ・デフレ補正と同じくらい、為替の変動も4%ルールの成功に大きく影響を与えることが予想されます。

さっき4%ルールは、米国のような右肩上がりの成長が期待できる国の株式・債券じゃなきゃダメって言ってたじゃない? 為替の影響が大きいなら、やっぱり日本の株や債券の方がいいってこと?

ぶっちゃけわかりません(ーー;
日本版トリニティスタディが出ることを期待するしか・・・

・・・( °Д°)

と、とりあえず学者でもない私たちができることは、円とドルの資産をバランスよく持とう! としか言えないですハイ
4%ルールの『4』という数字に将来への保証はない
トリニティスタディは1998年までのデータを扱ったものですが、2018年にWade Pfauさんという方が2017年までデータを拡張して、再度シミュレーションをされました。いわばトリニティスタディ・アップデート版です。
原文については下記リンクから読むことが可能です。
The Trinity Study And Portfolio Success Rates (Updated To 2018)
対象期間が2017年まで含まれたため、2000年初頭のITバブル崩壊や2008年のリーマンショックのような最新の暴落相場の影響も見れるようになりました。
ちなみに債券は下表のとおり社債から国債に変更されています。米国ETFで言えばAGGあたりになりますか。
変更点 | 1998年版 | 2018年版 |
---|---|---|
対象期間 | 1926〜1995 | 1926〜2017 |
使用した市場データ | 株式:S&P500指数 債券:長期高格付社債 | 株式:S&P500指数 債券:中期米国債 |
1998年のトリニティスタディと、2018年更新版を比べたグラフが次になります。
どちらもインフレ・デフレ率補正済みです。

結果に大きな変化はありませんが、成功率の数字がここ20年で多少変化したことがわかります。
- 株式100%、取り崩し率10%で成功率34%→21%(-13%)
- 株式25%債券75%、取り崩し率5%で成功率27%→44%(+17%)
- 株式50%債券50%、取り崩し率4%で成功率95%→100%(+5%)
最新の市場動向を加味しても結果が大きく変わらなかったことから、トリニティスタディという検証方法そのものの信頼度はやはり高いと言えます。
ただ上記の通り、直近20年の変化だけでも、成功率は数%~十数%は動いているので、『成功率100%』という数字にこだわる意味はないとも言えるのではないでしょうか。
さらに今から20年後、取り崩し率4%の成功率が90%以下になっているかもしれません。

「とにかく4%ずつ取り崩していけば大丈夫だ!」ではなく、自分の資産残高を常にチェックし、生活費をコントロールする意識を持ちたいですね
4%ルールじゃなく『3%ルール』?
人生100年時代。仮に40歳でFIREしたら、人生の残りは60年もあります。
そこで30年よりもっと長く取り崩し続けたらどうなるの? ということを計算した論文もありました。
The Ultimate Guide to Safe Withdrawal Rates
対象期間はなんと1871年から。泣く子も黙る第一次世界大戦前ですよ。
また、この論文も債券は国債(AGG相当)を選択しています。インフレ補正も込みとのこと。
他データと比較する際はご注意ください。
対象期間 | 1871〜2015 |
使用した市場データ | 株式:S&P500指数 債券:長期米国債 |
株式50%債券50%で、30年取り崩した場合と60年取り崩した場合の成功率は次の通りとなりました。
驚くべきことに、取り崩し率3%なら60年間取り崩しても成功率100%を維持しています。
これまで見てきた1998年版トリニティスタディ、2018年更新版も、取り崩し率3%なら成功率100%を示していました。

もう3%ルールに改名したら?

それは投資とかFIRE系インフルエンサーにお任せするとして・・・
まあさっきも言った通り、将来も取り崩し率3%が100%成功するかはわからないので、取り崩し率はなるべく下げる意識を持っておきましょう
まとめ|4%ルールに縛られない柔軟なFIRE計画を
- 4%ルールでは、売却益にかかる税金(日本なら20.315%)が考慮されていないので、手取りはいくらになるか計算しておくこと
- 債券の割合が多くなると、高い取り崩し率のとき資産が残る可能性が低くなる(債券比率は多くても50%以下がいい)
- 4%ルールの成功率は物価・為替の影響を強く受けるので、円/ドル両方の資産をバランスよく持つべき
- 資産が残る確率は20年の月日でも数%変化しているから、将来も4%なら絶対に大丈夫と勘違いしない
- 取り崩し率をなるべく抑えられるよう、常に自分の資産と家計(支出)はコントロールする
以上がトリニティスタディを読んでわかった、4%ルールを成功させるために知るべき5つのことでした。
いやあ、自分でまとめてて脳みそ爆発するかと思いましたねw
情報がいっぱいあると頭こんがらがっちゃいますが、やはり一次情報を見ることで、考えの土台がしっかりします。

今なら全世界の株式に投資できるETFもあるから、そっちのインデックスなら株式100%でもいいかもね

トリニティスタディは証券の売却だけ考えてるけど、REITや株の配当での運用など、資産運用方法は他にいくらでもあるし

4%ルールはあくまで資産運用方法の1つに過ぎないってことか
月並みな結論になってしまいますが、常に自分の頭で考えることが資産運用の最適解なんだと思います。
自分の人生を守るのはやっぱり自分しかいません。
常に新しい情報を取り入れながら、そのときそのときの最適解を、自分なりに考え続けていきたいですね。
私も自分の資産づくりを通して、少しでも参考になる情報をこれからもお届けしていきたいと思います。ではでは。